優秀な公認会計士が転職で「動けなくなる」理由
――失敗を恐れるほど遠ざかる、理想のキャリア

監査法人で高い評価を受けている。インチャージも経験した。チーム内では頼りにされているし、クライアントからの信頼も厚い。


でも、心のどこかで思っている。


「このまま監査を続けて、自分はどこに行くんだろう」


そして同時に、こうも思っている。


「でも、転職して失敗したらどうしよう」


5,000人を超える会計士のキャリアを支援してきた中で、最も多く出会うのがこのタイプの方です。


能力が高い。


周囲からも認められている。


だからこそ、「失敗したくない」という気持ちが人一倍強く、今の場所から動けなくなってしまう。


前回の記事「なぜ優秀な公認会計士ほど転職で後悔するのか?」では、優秀な会計士が陥りやすい転職後の後悔パターンを整理しました。


今回は、その「手前」にある問題――そもそも転職の意思決定ができないという、もう一つの落とし穴について深掘りします。


そしてこの記事では、単に「リスクを避ける方法」ではなく、「あなたが本当に目指したい姿にどうやって近づくか」という視点を大切にしたいと思います。


なぜなら、リスク回避だけでキャリアを判断すると、結局どこにも行けなくなるからです。

優秀な会計士ほど「動けない」3つの構造

転職を考えているのに動けない。これは意志の弱さでも、優柔不断でもありません。優秀であるがゆえに働く、構造的なブレーキがあります。

  • 「失敗のコスト」が見えすぎること。

    会計士はリスク評価のプロです。重要性の判断、例外事項への感度、あらゆる角度からの検証――これらは監査業務において不可欠なスキルですが、自分のキャリア判断にも同じ思考を適用してしまうと、「起こりうるリスク」ばかりが目に入ります。

    年収が下がるかもしれない。人間関係がうまくいかないかもしれない。自分の経験が通用しないかもしれない。こうした"リスクの棚卸し"は完璧にできるのに、「転職によって得られるもの」の棚卸しは驚くほど不十分なケースが多いのです。

  • 「現状が悪くない」こと。

    監査法人でマネージャー手前、あるいはマネージャーとして活躍している方の多くは、年収も悪くなく、働き方もある程度コントロールできている状態にあります。決定的な不満がないからこそ、転職する「強い理由」が見つからない。

    しかしここに落とし穴があります。キャリアにおいて最も危険なのは、「不満がある状態」ではなく、「不満はないが成長もない状態」です。不満は行動の原動力になりますが、ぬるま湯はそうなりません。

  • 「正解を探してしまう」こと。

    優秀であるほど、「正解のある世界」で生きてきた時間が長い。試験には正解があった。監査にも基準がある。しかし、キャリアには正解がありません。

    転職先Aと転職先B、どちらが正解か。実は、どちらを選んでも正解にできるかどうかは、選んだ後の自分次第です。にもかかわらず、「選ぶ前に正解を確定したい」と考えてしまう。これが、優秀な会計士が動けなくなる最大の理由です。

「リスクを減らす」発想だけでは、どこにも行けない

ここで、一つ視点を変えてみましょう。


「転職で失敗したくない」という気持ちは当然です。しかし、その気持ちだけでキャリアを判断していると、選択肢は「現状維持」しか残りません。


キャリアの意思決定において本当に大切なのは、リスク回避ではなく、「自分はどうなりたいのか」というビジョンから逆算することです。


PCPでは、キャリアの優先順位を「お金・時間・やりがい」の3つの軸で整理することを推奨しています。そしてこの3つを、できる限り数字に落とし込む。


たとえば「年収は最低でも○○万円」「残業は月○時間以内」「経営に近い意思決定に関わりたい」。このように言語化しておくと、「何を選べばいいか分からない」という霧が少しずつ晴れていきます。


しかしここで注意が必要なのは、「お金はそこまで重視しない」と言いながら、「現年収は維持したい」と考えている場合です。これは実質的にお金を優先しているのと同じです。自分の本音に気づくことが、判断軸を持つ第一歩になります。


さらに言えば、「やりがい」を仕事だけに求める必要はないという視点も重要です。年齢を重ねるにつれて、仕事における新鮮な刺激は自然と減っていきます。趣味やライフワークでやりがいを感じている会計士も少なくありません。仕事にはお金と安定を求め、やりがいは別の場所で見つける。これも立派なキャリア設計です。


大切なのは、

「何を大事にしたいか」を自分で選び取っているか

漠然とした不安に支配されるのではなく、自分の意志で決めた軸に基づいて判断できる状態をつくること。それが「後悔しないキャリア」の本質です。

「いつか動く」は、永遠に来ない

転職に関する相談を受ける中で、最も多い言葉の一つが「もう少し経験を積んでから」です。


もちろん、タイミングは重要です。キャリア形成には年齢、経験・スキル、景気動向、ライフステージ、そして優先順位という5つの要素が影響します。これらを無視して勢いだけで動くことは勧めません。


しかし「もう少し」が1年になり、3年になり、気づけば5年経っている――というケースは非常に多い。特に優秀な方ほど、現職で次々と新しい役割を任されるため、「今は動けない理由」がいつでも存在する状態になります。


ある会計士は、大手監査法人で約4年の経験を積んだ後、創業間もないスタートアップにCFOとして飛び込みました。監査法人では国際部で大企業の監査を担当し、現場責任者として本質的な監査リスクを捉える力を培っていた方です。客観的に見れば「まだ監査法人にいてもいい」タイミングでしたが、本人の中には「経営の現場で自分を試したい」という強い意志がありました。


結果としてその方は、ゼロから管理部門を立ち上げ、IPOを達成し、上場後のIRやファイナンスも統括。さらにはその経験を活かして自ら会社を創業するに至っています。


この方のキャリアが成功した理由は、「完璧なタイミング」で動いたからではありません。

「自分がどうなりたいか」が明確で、その実現のためにリスクを引き受ける覚悟があった

からです。


一方で、監査法人に15年以上在籍し、いつか動こうと思いながらパートナー手前まで来てしまった方からの相談もあります。その方の能力が低いわけではありません。むしろ高い。しかし、「動ける期限」を意識しなかった結果、選択肢が想像以上に狭まっていたのです。


率直に言えば、事業会社のCFOや管理部長への常勤ポジションは、40代前半を境に選択肢が急速に狭まります。社外CFOや社外監査役としての道は年齢と共に広がりますが、常勤で「次のステージに挑戦したい」のであれば、動ける時間は想像より短いかもしれません。

「自己分析なき転職」がすべての後悔の温床になる

ここまで「動けない構造」と「動くべきタイミング」について述べてきましたが、一つだけ強調しておきたいことがあります。


自己分析をしないまま転職に臨んでも、うまくいきません。


会計士の多くは、一般的な就職活動を経験していません。試験に合格し、そのまま監査法人へ。自分の価値観や将来像と丁寧に向き合う「就活」のプロセスを飛ばしてキャリアを始めているのです。


その結果、転職活動を始めても「自分が何を大事にしたいか」が分からない。一見魅力的に見える求人に飛びつき、入社後に「やっぱり何か違う」と感じてしまう。これが転職後の後悔につながるパターンです。


判断軸を見つけるための情報は、ネットや本や他人の話の中ではなく、自分の内側にあります。


過去の経験で心が動いた瞬間は何か。どんな仕事をしているときに没頭できたか。逆に、何が苦痛だったか。5年後、10年後にどんな自分でありたいか。


これらの問いに向き合い、自分なりの言葉で答えを持っておくこと。それが判断軸であり、「どんな選択をしても後悔しない」ための唯一の方法です。


そして自己分析は、面接対策にもなります。中途採用面接で聞かれる質問の大半は、「これまでのキャリアはどのような軸で選んできたか」「転職理由は何か」「今後のキャリアプランは」といった、自己分析の深さが問われるものです。一本の軸が通っていれば、どんな質問にも自然に答えられるようになります。

「正解を選ぶ」のではなく、「選んだ道を正解にする」

監査法人で培った「リスクを減らす思考」は、会計士にとって大切な武器です。しかし、キャリアの意思決定においては、それだけでは不十分です。


「失敗しない選択」を探し続けていると、いつまでも動けません。なぜなら、キャリアに100%の正解は存在しないからです。


PCPが支援してきた5,000人を超える会計士の中で、後悔のない選択をしている方には共通点があります。


それは、「正解を選んだ」のではなく、


「自分の判断軸で選び取り、その選択を正解にする努力をした」

ということです。


転職は「環境を変える」ことですが、その環境でどう働き、どう成長するかは自分次第です。やりがいも成長実感も、最初から与えられるものではなく、築いていくもの。転職先という「新しい土俵」でどう勝負するかは、あなた自身が決められるのです。

「動く」ことだけが答えではない

最後に、大切なことを一つ。


この記事は「今すぐ転職すべきだ」と言いたいわけではありません。


現職の恵まれた環境を再認識し、「やっぱり残ろう」と決めること。それもまた、自己分析と判断軸に基づいた立派な意思決定です。実際にPCPに相談に来た方の中にも、面談を通して「現職に留まる」と決断された方は少なくありません。


大事なのは、「残る」も「動く」も、自分の意志で選び取っているかどうか


惰性で残るのと、戦略的に残るのは全く違います。漠然とした不安で動けないのと、冷静な判断のうえで「今は動かない」と決めるのも全く違います。


どちらの場合でも、

判断軸を持っている人は後悔しません

もし今、「動きたいけど動けない」と感じているのであれば、それはあなたの判断軸がまだ明確になっていないサインかもしれません。


自己分析は、一人で抱え込む必要はありません。プロの視点と豊富な支援実績をもとに、あなたのキャリアの輪郭を一緒に描いていきます。


「5年後の自分に、胸を張れる選択をしたい」


そう思った方は、まずはご自身の状況を整理するところから始めてみませんか。

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無料相談のご案内

株式会社PCPは、公認会計士による公認会計士のための転職エージェントとして、専門性と実践力を融合した支援を提供しています。

3つの特徴

#01

会計士によるキャリアコンサル

株式会社PCPは、監査法人出身かつ事業会社でのマネジメント経験を有する会計士がキャリアコンサルティングをさせていただいています。 求職者様と同じ会計士としての視点でお話を伺えるため、それぞれ求職者様ごとの会計士としてのキャリアプランを想定しながら、より適切なアドバイスができます。また、事業会社でのマネジメント経験も有しているため、採用企業のマネジメント層の視点をもって求めているスキルや資質などについて、より適切なアドバイスができます。 会計士が監査法人から他業種に転職するにあたって留意すべきポイント、他業種から監査法人に転職するにあたって留意すべきポイントはそれぞれ異なります。それらの留意すべきポイントは、実際に会計士として監査法人で働いた経験を有する者、他業種で働いた経験を有する者でないとなかなか語ることは難しいものです。

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#02

会計士特化の自己分析サポート

より納得度の高い転職を実現するためには、自己分析をするべきであると考えています。 弊社では独自で考案した「キャリアコンサルシート」を用いて、求職者に寄り添って自己分析をサポートしていきます。 自己分析はひとりでやるには限界があります。 わたしたちが第三者的な立場でアドバイスをさせていただくことで、ひとりでは見えてこなかった“気づき”を得ていただくことが出来ます。

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#03

会計士専門の ​​​​​​​性格タイプ別診断

大学との共同研究でつくりあげた会計士専門の性格診断ツール(※)によって、会計士の性格タイプごとのキャリア情報を集積しています。

これにより性格タイプごとの統計データを分析し、あなたの性格タイプにあったキャリア形成に関する情報をご提供します。

この性格診断ツールは会計士の約10人に1人が利用しています。

※ 弊社グループ会社である(株)CPAコンパスが運営する会計士専門メディア「会計士の履歴書」の性格診断ツールを利用します

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CPA AGENT

コンサルタント

どんな働き方があるか話を聞きたい方、キャリアパスを考えたい方、今すぐ転職相談したい方も、下記お問い合わせからご連絡ください。

  • ダウンロード (3)

    代表取締役

    2008年合格後、監査法人にて多様な業種の監査や内部統制業務を担当し、2011年に株式会社PCPを創業。その後は事業会社の管理部長や経理財務マネジャーとしてIPO準備や決算早期化をリードし、自らの経験をもとに会計士のキャリア支援を担っています 。

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    大阪事務所所長

    2009年合格後、成学社にて経理課に従事し、連結決算や開示対応などを担当。その後、複数のビジネス領域で経営・財務を統括し、2016年よりPCP大阪所長として、会計士の多様なキャリア支援に従事しています。

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この記事は私が書きました

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執筆者紹介

【執筆者 桑本 慎一郎】株式会社PCP代表取締役


2008年合格後、監査法人にて多様な業種の監査や内部統制業務を担当し、2011年に株式会社PCPを創業し、公認会計士専門の転職エージェントとして15年を迎える。その後は事業会社の管理部長や経理財務マネジャーとしてIPO準備や決算早期化をリードし、自らの経験をもとに会計士のキャリア支援を担っている。

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