「残るべきか、出るべきか」を見極める5つのチェックポイント ――IPO準備CFO歴5年超の会計士へ
「このまま残って上場を見届けるべきか、それとも今のうちに外に出るべきか」
IPO準備企業でCFOを5年以上務めている方なら、この問いが頭の中で何度もリフレインしているはずです。
年収は1,500万円前後。
管理部門は自分なしでは回らない。
ストックオプションもある。
悪くない。
でも、「悪くない」の先に、どこか閉塞感がある。
前回の記事「IPO準備企業のCFOから抜け出せない」では、多くのCFOが"居心地の良い停滞"に陥る3つの構造的な理由をお伝えしました。
今回は、その先にある「では、どう判断するか」に踏み込みます。
PCPでは、これまでIPO準備企業のCFOから転職相談を受ける中で、「残った結果うまくいった人」と「動いた結果うまくいった人」の両方を見てきました。
そして、両者の違いは"タイミング"や"運"ではなく、冷静な判断基準を持っていたかどうかにあります。
今回ご紹介する5つのチェックポイントは、「勢い」でも「気分」でもなく、構造的にキャリアを判断するための物差しです。
すべてに即答できる方は少ないかもしれませんが、一つひとつ向き合うことで、ご自身の状況が驚くほど整理されるはずです。
チェック①:その会社、本当にIPOできますか?
――感情ではなく、3つの指標で冷静に評価する
「上場を目指している」と言う企業はたくさんあります。
しかし、"言っている"のと"できる"のは全く別の話です。
会計士であるあなたは、BSやPLを読む力は十分にお持ちのはずです。
ただし、スタートアップの場合、財務諸表だけでは将来性を判断しきれません。
PCPでは、IPO準備企業を見極める際に3つの指標を重視しています。
-
(1) 競合優位性は防衛・拡張可能か
ニッチ市場におけるポジションが明確で、かつそれが他社に簡単に模倣されないか。「市場は大きいです」「将来性はあります」といった"ふわっとした表現"だけで説明されている場合は要注意です。
具体的に確認すべきは、「この会社が勝つ理由は何か」を経営者が自分の言葉で言語化できているかどうかです。
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(2) 収益モデルはストック型か
ストック型(継続課金)なのか、フロー型(一括売切り)なのか。IPOの観点で言えば、ストック型かつ拡張戦略が明快なモデルが圧倒的に有利です。
「今は赤字だが将来的に黒字化する」と言われることがありますが、重要なのは"どのように"黒字化するのか、そのロジックに説得力があるかどうかです。
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(3) 経営者は誠実か
結局のところ、事業の根幹は「人」です。特に経営者の人柄や姿勢は、あなたがCFOとして働く上で極めて重要な要素となります。
会計士の提言に真摯に耳を傾けるか。数字をごまかさないか。トラブル時に正面から向き合えるか。もし経営者が「数字はあとで何とかする」「細かいことは気にするな」というタイプであれば、IPOの道のりで必ず躓きます。
PCPがこれまで紹介してきたIPO準備企業のうち、約半数が実際に上場を果たしています。
この実現率は偶然ではなく、上記の3つの指標をベースに企業を精査してきた結果です。
あなたが今いる会社は、この3つに当てはまっていますか?「正直、どれも微妙だな」と感じたのであれば、それが一つ目のシグナルです。
チェック②:あなたの経験は「IPO準備」の外でも通用しますか?
――スキルの"閉じ方"を点検する
同じ会社に5年以上いると、管理部門は自分好みに最適化されていきます。
会計・人事・労務・法務すべてがあなたの理解のもとで動いており、あなたが最も詳しい状態。
社内では「管理部門の要」として一目置かれている。
しかし、ここで問いたいのは、「その評価は"社内限定"になっていないか?」ということです。
IPO準備CFOとしてのスキルには、大きく分けて2つの種類があります。
一つは「ポータブルスキル」。
つまり、どの会社に行っても通用する汎用性の高い能力です。
経営戦略の立案能力、資金調達の実績、投資家とのコミュニケーション力、管理体制のゼロからの構築経験。
これらはIPO準備に限らず、上場企業でも、別のスタートアップでも、社外CFOとしても高く評価されます。
もう一つは「ローカルスキル」。
その会社でしか通用しない、属人化したオペレーション知識です。
「うちの会社の経理フローはこう回す」「この株主にはこう対応する」「社長のこだわりはここ」といった知識。
もちろん現職では不可欠ですが、外に出たときの市場価値にはなりません。
5年以上同じ環境にいると、ローカルスキルの比重が徐々に高くなり、ポータブルスキルの更新が止まるリスクがあります。
自分に問いかけてみてください。もし答えに詰まるようであれば、それは市場価値が停滞しているサインかもしれません。
「今の自分が転職活動をしたとして、経歴書に何を書けるか?」
「この5年間で、"初めて"取り組んだことはいくつあるか?」
チェック③:ストックオプションの「期待値」を正しく計算していますか?
――EXITできなければ紙切れという現実
IPO準備企業のCFOが「辞められない」理由の中で、最も定量的に判断できるのに、最もあいまいに扱われがちなのがストックオプションです。
「上場すればまとまったキャピタルゲインが得られる」。
これ自体は事実です。しかし、この期待は次の掛け算で考える必要があります。
期待値 = あと何年でIPOできる確率 × 想定キャピタルゲイン(税引後)
この数字を、もう一つの数字と比較してください。
機会費用 = その年数 × 外で得られるであろう経験・年収・キャリア資産
たとえば、「あと3年で上場できる確率が50%」「キャピタルゲインの手取りが2,000万円」なら、期待値は1,000万円です。
一方、3年間で別の環境に身を置いた場合に得られる経験値、ネットワーク、年収総額を考えると、1,000万円以上の価値がある可能性は十分にあります。
さらに注意すべきは、ストックオプションの設計そのものです。
税制適格か非適格か。在籍要件はどうなっているか。行使価格と現在の株価の関係は妥当か。
そして何より、ストックオプションの価値は「EXITできるか」に100%依存するという事実。
上場しなければ、ストックオプションは文字通りゼロです。
東京証券取引所が「上場後5年で時価総額100億円」という基準を導入して以降、IPO準備を断念する企業は増加しています。
この制度変更は、あなたのストックオプションの実現可能性にも直接影響を及ぼしているはずです。
「もらえるかもしれないお金」に判断を委ねるのではなく、「確実に得られる経験と報酬」とのバランスで冷静に計算すること。
これがチェック③の本質です。
チェック④:年齢とライフステージから逆算した「動ける期限」を把握していますか?
――あと何年、選べる立場でいられるか
PCPでは、キャリア形成を考える際に「5つの要素」を確認しています。年齢、経験・スキル、景気動向、ライフステージ、そして優先順位です。
中でも、IPO準備CFOの「残るか出るか」の判断において特に重要になるのが、年齢とライフステージです。
率直に申し上げると、事業会社のCFOや管理部長への転職市場は、40代前半を境に選択肢が急速に狭まります。
これは能力の問題ではなく、採用側の年齢構成や組織文化との兼ね合いによるものです。
もちろん、社外CFOや社外監査役としての道は年齢と共にむしろ広がります。
しかし、常勤ポジションで「次のステージに行きたい」と思うなら、動ける期限は想像以上に短いかもしれません。
ライフステージも重要です。
子どもの教育費がかかる時期に年収を下げるのは現実的ではない。
一方で、子育てが一段落したタイミングで挑戦の余裕が生まれることもある。
ここで大切なのは、「いつか動こう」ではなく、「いつまでなら動けるか」を具体的に見積もっておくことです。
たとえば「あと2年以内に上場しなければ動く」「子どもが中学に上がるまでは現状維持」といった、自分なりのデッドラインを設けておく。
このデッドラインがあるだけで、「ずるずる残り続ける」という最悪のシナリオを避けられます。
チェック⑤:「居心地の良い停滞」と「戦略的残留」を区別できていますか?
――残るなら、残る理由にも「判断軸」が必要
ここまで読んで、「やっぱり自分は残るべきだ」と感じた方もいるかもしれません。
それは何も悪いことではありません。
むしろ、冷静にチェックした上で「残る」と判断できるなら、それは非常に強い選択です。
ただし、一つだけ確認してほしいことがあります。
その「残る」は、惰性ですか、戦略ですか?
「居心地の良い停滞」とは、「不満はないが、成長もない」状態を指します。
年収は悪くない。
仕事も回っている。
IPOは遅れているが、致命的な問題があるわけではない。
だから動く理由がない――。
これは「判断していない」のと同じです。
一方、「戦略的残留」とは、明確な目的と期限を持って残ることです。
「あと1年で上場するから、そこまで見届ける」「経営者との信頼関係を活かして、上場後は取締役として残る」「ストックオプションの行使条件をクリアするために、あと半年は在籍する」。
このように、残る理由が自分の「判断軸」から導き出されているかどうか。
それが「停滞」と「戦略」を分ける一線です。
PCPでは、キャリアの優先順位を「お金・時間・やりがい」の3つの軸で数値化することを推奨しています。
たとえば「お金は年収1,200万円以上」「残業は月30時間以内」「やりがいは経営に近い意思決定に関与できること」。
こうした具体的な言葉にしておけば、残る場合も出る場合も、判断にブレがなくなります。
まとめ:「5つのうち3つ以上」に不安があるなら
ここまでの5つのチェックポイントを振り返ります。
-
その会社は本当にIPOできるか(競合優位性・収益モデル・経営者の誠実性)
-
あなたのスキルは社外でも通用するか(ポータブルスキル vs ローカルスキル)
-
ストックオプションの期待値を冷静に計算しているか(EXIT依存リスク)
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年齢・ライフステージから「動ける期限」を把握しているか
-
「残る」理由が戦略的か、それとも惰性か
もし5つのうち3つ以上に明確な答えが出せないのであれば、それは「今すぐ辞めるべき」というサインではありません。
しかし、「自分の市場価値を確認しておくべき」というサインではあります。
PCPでは、「今すぐ転職したい」方だけでなく、「今は動かないが、選択肢を整理しておきたい」という方の相談も数多く受けています。
実際に動かなかったとしても、外の景色を知ることで、今いる場所の価値が初めて見えてくることもあります。
あなたの市場価値は、あなたが思っている以上に高いかもしれません。あるいは、想像とは違う形で評価されているかもしれません。
いずれにせよ、判断軸を持つことが、後悔しないキャリアの第一歩です。
5年後に「あのとき考えておいて良かった」と思えるように。まずは、ご自身の状況を整理するところから始めてみませんか。
無料相談のご案内
株式会社PCPは、公認会計士による公認会計士のための転職エージェントとして、専門性と実践力を融合した支援を提供しています。
3つの特徴
#01
会計士によるキャリアコンサル
会計士によるキャリアコンサル
株式会社PCPは、監査法人出身かつ事業会社でのマネジメント経験を有する会計士がキャリアコンサルティングをさせていただいています。 求職者様と同じ会計士としての視点でお話を伺えるため、それぞれ求職者様ごとの会計士としてのキャリアプランを想定しながら、より適切なアドバイスができます。また、事業会社でのマネジメント経験も有しているため、採用企業のマネジメント層の視点をもって求めているスキルや資質などについて、より適切なアドバイスができます。 会計士が監査法人から他業種に転職するにあたって留意すべきポイント、他業種から監査法人に転職するにあたって留意すべきポイントはそれぞれ異なります。それらの留意すべきポイントは、実際に会計士として監査法人で働いた経験を有する者、他業種で働いた経験を有する者でないとなかなか語ることは難しいものです。
#02
会計士特化の自己分析サポート
会計士特化の自己分析サポート
より納得度の高い転職を実現するためには、自己分析をするべきであると考えています。 弊社では独自で考案した「キャリアコンサルシート」を用いて、求職者に寄り添って自己分析をサポートしていきます。 自己分析はひとりでやるには限界があります。 わたしたちが第三者的な立場でアドバイスをさせていただくことで、ひとりでは見えてこなかった“気づき”を得ていただくことが出来ます。
#03
会計士専門の 性格タイプ別診断
会計士専門の 性格タイプ別診断
大学との共同研究でつくりあげた会計士専門の性格診断ツール(※)によって、会計士の性格タイプごとのキャリア情報を集積しています。
これにより性格タイプごとの統計データを分析し、あなたの性格タイプにあったキャリア形成に関する情報をご提供します。
この性格診断ツールは会計士の約10人に1人が利用しています。
※ 弊社グループ会社である(株)CPAコンパスが運営する会計士専門メディア「会計士の履歴書」の性格診断ツールを利用します
CPA AGENT
コンサルタント
どんな働き方があるか話を聞きたい方、キャリアパスを考えたい方、今すぐ転職相談したい方も、下記お問い合わせからご連絡ください。
この記事は私が書きました
執筆者紹介
【執筆者 桑本 慎一郎】株式会社PCP代表取締役
2008年合格後、監査法人にて多様な業種の監査や内部統制業務を担当し、2011年に株式会社PCPを創業し、公認会計士専門の転職エージェントとして15年を迎える。その後は事業会社の管理部長や経理財務マネジャーとしてIPO準備や決算早期化をリードし、自らの経験をもとに会計士のキャリア支援を担っている。
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